時計の話でコンプリケーション、複雑機構という言葉が出る。クロノグラフ、ムーンフェイズ、永久カレンダー、トゥールビヨン。名前が並ぶと、高級の階段に見える。階段というより、別の仕事を足した時計、と考えた方がいい。
クロノグラフは、ストップウォッチだ。主針とは別に、経過時間を測る。スポーツと、計測の歴史がそのままデザインになっている。ムーンフェイズは、月の満ち欠けを盤面に出す。実用というより、空の周期を腕に載せた詩に近い。
複雑だから偉い、ではない。何を測りたくて、機構を足したかが本題だ。
永久カレンダーは、大の月小の月、うるう年まで機械が覚える。直すのも、合わせるのも大変になりやすい。トゥールビヨンは、重力の影響をならすための籠。今の精度競争では必須ではないが、動く工芸として残った。
複雑であることは、正確であることと同じではない。故障箇所も増える。初めての一本に、全部入りを求めない方が、長く付き合える。シンプルな三針に、一つの機能。それだけで、十分に贅沢だ。
店頭で小さな押しボタンや、月の絵を見つけたら、何を測る針かを聞く。答えが返ってくると、その時計は急に具体になる。複雑機構は、知識の見せびらかしではなく、問いの形だ。
