大きな美術館は、一日では終わらない。終わらせようとすると、後半は歩いているだけになる。足が先に、目が後に、閉じていく。全部見ない勇気は、怠惰ではなく、鑑賞の技術だ。

先に、部屋の数と、自分の体力を見る。一点、深く。その周辺。カフェ。もう一点。このリズムの方が、記憶に残る。音声ガイドは、全部聞かなくていい。気になった番号だけ。

良い回り方は、網羅ではない。今夜、残る三点を決めることだ。

混む作品は、遠くから形を見て、空いた隙間で顔を見る。有名な一点に、列の時間を全部使わなくてもいい。隣の部屋の、誰もいない絵が、今夜の主役になることがある。

写真を撮るなら、作品より、自分の距離を残す。画面の中に、自分がどこに立ったか。後で思い出すための、位置の記録だ。

帰りに、三点だけ言えるか。言えれば、その日の美術館は成功だ。コレクションの量に、自分を合わせない。自分の一日に、作品を合わせる。