何が描いてあるか、と聞きたくなる。抽象画は、その問いを、一度受け取らないことがある。色の面積、線の速度、キャンバスの端。物の名前の代わりに、関係が主題になる。
音楽に近い、と言われることがある。メロディの模倣ではなく、時間と、強弱だ。離れて、面を見る。近づいて、筆や、絵具の厚みを見る。距離を変える鑑賞は、印象派と、意外と近い。
抽象は、下手な具象ではない。対象を外して、関係だけを残した絵だ。
題名は、手がかりにも、罠にもなる。番号だけの作品は、物語を拒否している。長い題名は、詩を添えている。どちらも、画面の説明書とは限らない。
分からない、を、自分の敗北にしない。作り手が、分かりやすい物の名前を、意図して外している。嫌いなら、嫌いと言ってよい。嫌いの理由が、色か、大きさか、歴史か。理由が言えると、抽象は急に具体になる。
部屋の、いちばん静かな絵が、抽象であることがある。物がないと、光と、自分の呼吸が残る。何が描いてないか、を見る。それが、入口の技術だ。
