東京の西側、南側に、城西、城南という言葉が残っている。江戸城を基準にした、古い方位だ。今は、住む空気のあだ名として使われる。緑と教育、格式と坂。便利な言葉ほど、中の差を消す。
城南とまとめても、港区の海側と、目黒の住宅、品川の再開発は別人だ。城西とまとめても、中央線沿いか、井の頭か、外に出るかで、夜の帰りが変わる。方位より、沿線。沿線より、最寄り駅の改札。
城南、城西は方位ではない。東京が育てた、空気のあだ名だ。
イメージは、価格にも入っている。名前が先行する街は、その分、期待のメンテナンスが要る。地味な駅の、歩いて気持ちのよい区画の方が、生活満足は高いことがある。相場は、満足の関数だけではない。
家族構成、働き方、休日の向き。南のイメージが欲しいのか、西の生活動線が欲しいのか。あだ名で選ぶと、週末の買い物先で気づく。先に、平日の朝を想像する。
会話で城南、城西が出たら、どの駅の話かを聞く。あだ名は入口にして、沿線で降りていく。東京の住まいの教養は、方位磁針より、時刻表に近い。
