徳利と猪口。日本酒の風景として、これ以上ない。一方で、ワイングラスで出す店が増えた。どちらが正しいか、ではない。香りを見るなら、口がすぼまったグラス。温度を手で感じるなら、小さな猪口。熱燗なら、熱を持つ器。
大きなグラスは、空気と、香りに広い部屋を与える。吟醸に向くことが多い。猪口は、飲むリズムが速くなりやすい。食事と、会話の席に、猪口が残る理由でもある。
器を替えると、同じ酒が、別の温度と、別の香りになる。
杯、錫、磁器。素材は、熱の伝わりが違う。見た目の和風より、今夜の温度に正直な器を選ぶ。家庭なら、二つあれば足りる。冷用のグラス、燗用の猪口。
注ぎ方も、器の一部だ。満タンは、香りを捨てる。少し空けて、嗅いで、飲む。ワインと同じで、余白は贅沢だ。
器の話は、道楽にされやすい。実際は、香味の最後の装置だ。一本の酒を、出口で変える。それが、猪口とグラスの、いちばん実務的な意味である。
