レストランのワインリストで、いちばん迷うのがフランスであることが多い。ボルドーのシャトー名はまだ覚えられても、ブルゴーニュは村の名前がボトルに書いてある。ジュヴレ・シャンベルタン、ヴォーヌ・ロマネ、ムルソー。土地の名前が、そのままワインの名前になる。
だからブルゴーニュは、銘柄を暗記する科目ではない。フランスの東、ディジョンの南に細長い丘がある。コート・ドール、黄金の丘。北側がコート・ド・ニュイ、南側がコート・ド・ボーヌ。赤の聖地と、白の名産地。この一本の線を頭に置くだけで、リストの半分は位置として読める。
ブルゴーニュは、銘柄の暗記ではなく、地図の問題だ。
品種は驚くほど少ない。赤はほぼピノ・ノワール、白はほぼシャルドネ。同じ品種なのに、村が変わると表情が変わる。薄い色の赤を見て「軽い」とは限らない。果皮の薄いピノは、色ではなく香りと骨格で語る。
最初に覚えるなら三つで足りる。力のある赤ならジュヴレ・シャンベルタン。名前を一度は聞いたロマネ・コンティはヴォーヌ・ロマネ村。豊かな白ならムルソー。この三点を丘の南北に置くと、「ちょっと詳しい自分」の入口になる。
会食で必要なのは、全部を語ることではない。リストの左端に並ぶ村名を、地図の一点として指せること。それだけで、ワインは急に身近になる。
