同じワインでも、カップに入れるのと、裾がすぼまったグラスに入れるのとでは、別物に近い。違いは気分だけではなく、物理だ。液面の面積と、香りの溜まる空間が変わる。
赤に大きめのボウルを使うのは、空気に触れさせ、複雑な香りを広げるため。白や泡に細めを使うのは、温度を保ち、香りを一箇所に集めるため。万能グラスが一つあれば、家庭は十分に始まる。全部の産地に専用グラスは、後からでいい。
グラスは飾りではない。香りを集めて、口へ運ぶための形だ。
持ち方は、ボウルではなくステム。手の熱がワインに移りにくい。注ぐ量は、香りを嗅げる余白を残す。満タンは、もてなしというより、香りを捨てている。
割れ物を恐れて厚手のグラスばかり、という家もある。薄さは見栄えだけではなく、口当たりに効く。ただし、最初の一本は、洗いやすく、形がはっきりしたものでよい。道具は、続くことが品質だ。
会食でグラスが替わったら、その理由を一度だけ意識してみる。泡用、白用、赤用。店が何をさせたいかが分かると、ワインそのものより先に、今夜の設計が見える。
