ワインを頼むのが苦手な理由の多くは、「正解の一本」を当てなければならない、と思っていることにある。レストランの注文は試験ではない。今夜の料理と、出せる予算の中で、飲めばいい一本を決める作業だ。

最初に決めるのは予算の帯である。ボトルなら「このくらいまで」、グラスなら「白と赤、どちらから」。数字を口にするのは気まずい、と感じる人もいる。実際は、レンジを伝えた方が、店も客も楽になる。

上手な注文は、知識の披露ではない。今夜の条件を、短く渡すことだ。

次に、今夜の料理の印象を一言で渡す。魚が中心、肉が来る、辛い、脂が多い。ソムリエや担当者は、その条件でリストを折りたたんでくれる。自分で産地まで指定できればなお良いが、必須ではない。

テイスティングで少量注がれたら、欠陥がないかを見る。コルク臭や、明らかな酸化。好みと違うことは、欠陥ではない。気に入らなくても、その場で全部変えてもらう対象ではないことが多い。香りを確かめて、頷いて、あとは食事と一緒に飲む。

上手な人は、知識を並べない。条件を渡して、提案を受け取り、次の機会にその産地を思い出している。レストランは、ワインを学ぶ場所でもある。一本ごとに、地図の点が一つ増える。